あなたの顔、貸しませんか?
中国AIショートドラマの超高速栄枯盛衰
ショートドラマ、95%はAI制作に
中国网络视听协会(中国ネット視聴覚協会)によると、2026年第1四半期に中国で配信されたショートドラマ(微短劇)は約12万8000作品。そのうち約12万2000作品がAIで作成されたものだという。比率にして95%超だ(人民網、2026年5月2日)。
四半期で12万8000作品という総数もアンビリーバブルだが、そのほぼ全てがAIというのがなんともえぐい。ショートドラマ界の覇者になったのはTikTokの運営企業として知られるバイトダンス。TikTok中国版の抖音(ドウイン)では今年3月の1カ月だけでAI劇・アニメドラマが約5万作品、1日あたり1300作品以上が上がっていた。
私は今年4月、動画メディア「PIVOT」に出演してAI動画の話をし、ショートドラマも取りあげた。「これからAIドラマの時代が来る」と確信していた。が、どうも怪しげな雰囲気が漂い始めている。
ショートドラマのAI化は必然、その理由
ざっくり整理しておく。中国の縦型ショートドラマが目立ち始めたのは2018〜19年ごろだが、2021年以降になって特に盛り上がりを見せた。序盤の数話は無料、続きは1話いくらで課金という形が爆発的に広がった。チャリンチャリンと課金を積み上げるモデルである。
これを壊したのがバイトダンスだ。2023年5月に抖音内で、8月に独立アプリとして「紅果短劇」(ホングオ/红果短剧)を投入。全話無料で見せ、合間に広告を流し、その広告収入を再生数に応じて制作会社に分配する。QuestMobileによると紅果短劇の月間アクティブユーザーは2026年2月に3億400万人。2年半で30倍に膨れ上がった。1日の平均利用時間は125分。2時間だ。
https://hongguoduanju.com/
ショートドラマは大流行してプラットフォームは大儲け、大ヒットを飛ばした制作会社も儲かるのだが、大量のプレイヤーが参入したことによって、ヒット作の比率は下がっていく。ショートドラマのビジネスモデルは優良作品を練りに練って作り上げる……ではない。とにかく大量に作り、実際に配信して視聴者の反応を見て、伸びた作品にだけ広告費を突っ込んで、さらにヒットさせる。ともかく量産してどれか1つを当てれば、赤字が回収できる。多産多死である。
そのためには作品をたくさん作らないといけない。安く、速く、大量に。この三条件に、動画生成AIは気持ち悪いほどきれいにハマった。昨年はAI漫劇がブームだった。リアル調のAI動画だと粗が見えるのでアニメ調で作るというもの。生身の俳優を使う実写のショートドラマが1本数十万元かかるところ、AI漫劇(アニメ調AIドラマ)は「1本2〜3万元」まで圧縮され、「1人で1日1本」が現実になった。今年になってAI動画ツールが進化し、リアル調のAIショートドラマも一気に増えた。
AIドラマの時代が到来したのだ。四半期で12万2000作品という形で。
人間の側では、顔が商品になった
となると、人間の俳優は失業するしかないのだろうか。
AIショートドラマが増えると、妙な副作用が出る。AIが生成する顔はテンプレ化していて、違う作品に同じ顔が何度も出てくる。中国のSNSでは「AI顔生理的嫌悪」なるワードがトレンド入りした。
そこで制作会社が求め始めたのが、生身の人間の顔だった。
中国メディア・澎湃新聞のルポ「”一枚の顔”の売買」が、この市場をよく捉えている。俳優のキャスティング用チャットグループには、こんな募集が流れる。「AIデジタルヒューマン肖像、女性、甘め可愛い系、撮影30分、150元で1年契約」「AI漫劇主役募集、日給500〜2000元」。
相場はばらばらだ。同記事に登場する俳優・王源凱(ワン・ユエンカイ、30)が提示されたのは、普通のショートドラマ用で顔1枚400元、制作費をかけたS級作品で1500元。仲介業者の「留白」によれば、素人の顔なら1000〜5000元、実績のある俳優の独占契約で年2万元。老人の顔を集めたい小さな会社が、村の入り口で卵を配って住民を集め、その場で数百元を渡してサインさせている、という話まで出てくる。
俳優の皇甫摩西(ホアンフー・モーシー、30)は契約を断った。台本のあらすじしか見せてもらえず、自分の顔が悪役に使われるかどうか分からないからだ。彼女は言う。「一線級の俳優の顔はそれ自体がIPで、商品です。彼らは絶対に売らない。売ってもファンが騒ぎます」
実際、騒ぎになった。今年4月、動画配信サイト・愛奇芸(アイチーイー)が「AIタレントライブラリ」を打ち出し、実写撮影は将来「無形文化遺産になる」と大見得を切った。ところが張若昀(ジャン・ルオユン)、于和偉(ユー・ホーウェイ)らも同ライブラリに入ったとの情報がネットで広まり、本人側が「そんな授権はしていない」と否定する騒動になった。愛奇芸は後日、実際に契約したのは馬蘇(マー・スー)ら別の俳優だったと説明している。
一方で、売る側に回った大物もいる。王祖賢(ジョイ・ウォン)は若いころの肖像素材を網易(ネットイース)のオンラインゲーム『天下3』に許諾し、ゲームの宣伝用AIGC広告短編『倩影』でかつての聶小倩や白素貞を再現した。エンドクレジットの表記は「王祖賢(AI)」。俳優の吳啓華(ローレンス・ン)は20歳当時の肖像を提供し、「相当な額」の許諾料を得たと語っている。
逆に、架空のAI俳優が広告に出演するようにもなった。
AIショートドラマ『被裁掉的女孩(リストラされた女の子)』は抖音単体で2億5000万回超再生の人気作品だ。主役の「方桃子」は共演の男性主人公「周以衡」とともにアカウントを開設して日常Vlogを投稿し、2人合わせて1カ月ほどでフォロワー50万人を超えた。バイトダンスの広告取引プラットフォーム「巨量星図」に載った彼女の掲載価格(実際の支払額ではなく提示価格)は、1〜20秒の動画で16万8000元、21〜60秒で20万8000元、60秒超で25万8000元(上観新聞、2026年8月3日)。最高25万8000元、日本円でざっと530万円。フォロワー数百万規模の生身のインフルエンサーより高い値付けだ。
存在しない人間に、生きている人間より高い値札が付く。ここまでが、私が「面白いから記事にしよう」と思っていた話だ。
ところが、書こうとしたら風向きが変わっていた
もうちょっと調べるか、このサブスタックに何か書こうかなと思って、今日、紅果短劇のアプリを開いて、あれ、と思った。新作欄にAIショートドラマが出てこない。検索すれば出るが、レコメンドに乗ってこない。実写のドラマのほうが目につく。
もう少し数字を当たってみると、話はそう単純ではなかった。
21世紀経済報道系の記事によると、第2四半期に配信されたショートドラマは23万9000本。うち実写8万6000本、AI15万3000本で、AI比率は63.96%だったと報じられている。第1四半期の95%超から大きく落ちたように見える。
ただし業界メディア・鈦媒体(タイメディア)の指摘によれば、95%超はDataEyeによる抖音など短編動画プラットフォーム限定の集計で、63.96%は中国网络视听协会によるもっと範囲の広い集計であり、複数プラットフォームやテレビ局系の作品まで含む。統計の取り方が違う数字同士なので、単純比較はできない。AI作品の絶対数で見れば12万2000本から15万3000本へ増えており、少なくとも「AIドラマが急減した」ことを示す数字ではない。
ただ、プラットフォームの方針が変わったことは確かだ。
プラットフォーム側がブレーキを踏んでいる。紅果短劇の「治理公告」を並べるとこうなる。第1四半期は違反漫劇1718本を削除、1万5000本を特別審査。4月7日からの1週間で3522本を遮断・処分。5月には2万本超。7月10日に公表された6月分の公告では、AI漫劇1万4357本と実写221本、合計1万4578本を公開前に遮断、または公開後に削除した。1カ月で1万4000本規模である。
粗製濫造のストーリーもだめらしい。ショートドラマ・プラットフォームには「打脸虐渣」(逆襲ざまぁ系)というジャンルがあるほどで、似たような作品が大量生産されている。
引き金のひとつは「桃花簪」事件だ。今年3月30日、小紅書(RED)のユーザー2人が、自分の写真がAIドラマ『桃花簪』の登場人物に無断で作り替えられているのを発見した。紅果短劇は4月3日に作品を全面削除し、出品側のアップロード権限を15日間停止した。
さらに8月3日、紅果短劇は「AI劇の役柄創作の規範化に関する公告」を施行した。中身が細かい。1本の作品の中で主役と主要な脇役は目鼻立ち・表情・体形をそれぞれ独立させること。髪型と衣装を変えただけは違反。作品をまたいで顔の類似度が65%を超えたら差し戻し。他人のオリジナルキャラの衣装・メイク・小道具・美術デザインの丸写しは禁止。重い違反には収益凍結と全作品削除、投稿権限の剥奪が科される。
行政も動いている。国家広電総局は4月からAI漫劇に「先に届出、後に配信」を課し、7月には未成年者保護の特別取り締まりを始めた。
国家インターネット情報弁公室(網信弁)は4月3日、「デジタルバーチャルヒューマン情報サービス管理弁法(意見募集稿)」を公表。第7条は、人の顔を建模や画像生成に使う際、目的や本人への影響を明示したうえで個別の同意を取ること、本人が同意を撤回した後はデータを削除することを義務づけた。第8条は、特定の自然人を識別できるデジタルヒューマンサービスを本人の同意なく提供してはならない、と定めている。150元で1年という簡単な契約が、どこまで有効な同意と認められるのか。顔を売る商売の足元は、そう安定していない。
経済の側からも冷や水が来た。DataEyeによると、1億回再生を突破したAIショートドラマは1055本、突破率は0.47%。AI漫劇に限れば、爆発的ヒットは1000本に1本、0.1%を切る。同時に、制作単価は1分1000元から3000元、5000元へと上がり、分配報酬は1万再生あたり800〜1000元だったものが100元程度まで落ちた。作るのは高くなり、もらえる金は8〜10分の1になった。完視聴率でも実写の40%超に対しAI作品は15%以下と言われる。
要するに、多産多死モデルは回り続けているが、「多死」のほうだけが急速に膨らんだ。
「あれ、目を離した隙に」
NHKのBSスペシャル『縦の支配 中国 ショートドラマの光と影』は、人間が気合いと安さで大量にドラマを撮り、アルゴリズムに乗せて稼ぐ世界を描いていた。放送から間もないのに、あれはもう一世代前の話になりつつある。制作費ではAI作品に勝てない。実写ショートドラマの月間新規配信数は、年初の1934本から6月には1629本に減った。
かといって、AIが勝ち切ったわけでもない。第1四半期にはAI比率95%超という数字まで飛び出した一方、春以降はプラットフォームが毎月1万本規模の作品を遮断・削除し、制作費は上がり、分配報酬は8〜10分の1まで落ちている。それでも、大ヒットしている作品はある。シナリオがよくできていたり、結構な緻密さで作られていたりと、たんなる「早い安い」ではない勝ち方をしている作品も出てきた。
この後、ショートドラマの世界はどこへ向かうのか。
正直に言えば、この記事を4月に書くつもりだった。書かずにもたついているうちに、新しいトピックがごろごろ出てくる。中国AIドラマ専門のリサーチャーなら毎日追いかけていられるのだろうが、あちこちのトピックを扱って、たまに定点観測して年に1、2本書こうかと考えている人間には、この速度はしんどい。
ただ、しんどいのは筆者だけではないはずだ。顔を1枚400元で売った俳優も、1分5000元でAI漫劇を発注した制作会社も、来月のルールを知らない。半年で二回ひっくり返る産業で、誰がどう身の振り方を決めればいいのだろうか。
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この投稿、図表はChatGPTとClaudeとのおしゃべりで作ったもの。テキストも音声入力をAIに手直しさせた。文章もデータも一応チェックはしているけれども、あくまでざっくり。間違えていたらごめんなさい。文責は高口康太にあります。






